小型犬の前足骨折で手術をすると、術式に関わらず骨吸収が起こることがあります。日に日に骨が細く脆くなっていくのは応力遮蔽と骨髄血流の閉鎖が原因です。
症例)トイプードルのノアちゃん、生後8ヶ月で左前肢を骨折
左前足を骨折して他院にてピンニング手術をしています。大きなギプスで足を固定していました。
当院には手術後の骨折の癒合不全の相談で来院しました。
骨折手術のリスク
小型犬の前足骨折の手術には癒合不全のリスクが伴います。
癒合不全になるまでの経過
左前足の手首近くの骨折後にピンニング手術をしています。ピンニングとは、骨の中心に金属のピンを入れて骨を固定する手術です。 金属のピンは、レントゲンで骨の中心に棒状に白く映ります。
手術から2週間後のレントゲン画像です。橈骨は癒合していますが、骨は細くなっており尺骨は消失しています。
手術から2ヶ月後のレントゲン画像です。ピンは抜去してあります。手術した橈骨は癒合しましたが骨は細くなっており骨密度の低下が見られます。尺骨は消失し他ので手首と肘の関節は不安定になりました。
10日後に同じ場所を再骨折しました。骨は脆弱で湾曲しています。最初に骨折してから2ヶ月以上が経っています。
再度、ピンニング手術を行なっています。骨へのダメージが大きいです。
飼い主様も不安になってきたそうです。
当院に相談
当院に相談に来たときは、2本の骨の一本は骨吸収して、残りの一本も骨密度が低下していました。
今後の治療方法として、ピンの抜去手術と3Dギプス治療を提案しました。
再生治療の開始
手術による骨のダメージが大きい状態で、当院での治療がスタートしました。
金属ピンの抜去
ピンが髄腔内の血流を阻害し、手首の可動域を制限するので抜去します。
自己の血液から抽出した高濃度の血小板で、局所のダメージを修復させます。
3Dギプス治療法を開始
3Dギプスを装着しながら歩行させて、骨折部位に着地時の刺激が伝わるようにします。骨折部分に負荷がかかることで骨が再生します。ここから3Dギプス治療法で骨を再生させます。
1週間後
3Dギプスを装着した状態で運動を指示しています。長い散歩やボール遊びで骨折した足の着地を促します。
骨折の再生が始まっていました。若いので骨の再生能力が残っていました。
3週間後
継続して運動をさせます。日に日に骨折した足で着地する回数が増えます。
レントゲン画像では太く再生して、骨密度も高くなっているのが確認できます。
5週間後
骨の再生が順調に行われました。
3Dギプスを外して治療終了です。骨密度も十分なので走っても大丈夫です。通常の生活に戻れました。
ノアちゃんの治療経過は獣医再生医療学会で発表しました。小型犬の橈尺骨骨折の治療するときの手術リスクや3Dギプス治療法の有用性について説明しました。
生後8カ月の成長期の骨は再生力が強く骨折は治るのが当たり前です。細い橈骨にインプラントを入れると骨髄血流を遮断して骨芽細胞の生成を阻害します。当院には手術後の癒合不全の相談と問い合わせは200件を超えています。細い前足骨折の治療法は転換する必要があると考えています。