はじめに
家庭犬の小型化がすすみ体重が1~2kgの犬が増えました。骨幅が1cmに満たない細い前足の骨折を手術で治すことが難しくなっています。
そこで当院は2018年に犬の橈尺骨骨折の3Dギプス治療法を確立しました。立体的に完全にフィットする筒状のギプスを使って骨折を治します。3Dギプスによって超小型犬の細い前足の骨折でも、当たり前に治せるようになりました。
3Dギプスとは
3Dギプス治療法の特徴
- 治療期間中でも歩行や駆け足、ジャンプができる
- 手術は不要
- 骨折の治りが早い
- 骨折は太く丈夫に治癒する
- 骨折が治る日数が予測できる
- 週1回の通院
よくある質問、Q&A
治療手順
骨折したら当院に電話かメールで連絡して早い日に来院して下さい。骨折直後は炎症止めの薬は使用しないでください。3Dギプス治療法は2種類のギプスを使います。骨折初期は完全固定のギプスで7日目くらいに3Dギプスです。3Dギプスを装着して歩行することで骨折は治ります。
来院後の治療
ステップ1、牽引固定
骨折したら、できるだけ早期に骨折した足は添木を使って固定します。骨折した足は完全固定を行い、約7〜10日間は安静に過ごします。
ステップ2、3Dギプス作製
骨折した足の石膏模型を作成してから3Dギプスを作製します。3Dギプスを装着してからは歩行を開始します。装着初期は3本足で歩行しますが、1週間程度で骨折した足でも着地するようになります。歩行するほど骨折は早く治ります。
ステップ3、1週間おきに通院
週1回の通院で、3Dギプスを調整しながら皮膚の洗浄と消毒をします。
ステップ4、レントゲンで確認
2週間ごとにレントゲン撮影して骨の再生を確認します。通院日数は年齢、炎症止めの使用の有無、骨の折れ方により異なります。骨折した箇所で架橋結合ができたら治療が終了になります。自己の修復力を利用して治る骨は短期間で太く強く治ります。3Dギプスの治療期間の運動制限はありません。骨折が癒合して太くなりすぎた骨は徐々に元の太さと構造に戻ります。
3Dギプス治療例
1才以下の犬は30~45日で骨折が治癒します。折れた骨は2~3倍の太さになって治ります。太くなりすぎた骨は、数か月で元の太さに戻ります。
2才以上の骨折では局所的に治ります。骨折線が重なってしまった場合でも治ります。1才以下なら左右の足が同じ長さになるように伸びて成長します。
当院で治療した181頭の治癒日数を調べました。成長期の犬は骨折の治りが早いです。骨の折れ方や初期治療によって治癒期間は変わります。6ヶ月未満の犬は約1ヶ月で骨折が治癒します。2才以上では約2ヶ月半で治癒します。
骨折が治るまでの概算費用
骨折が完治するまでの概算費用がわかるようになりました。週1回の通院で、初期固定、3Dギプス作製料、診察料(5〜10回)、血液検査1回、レントゲン検査料(3〜7回)、エリザベスカラー代などが含まれます。
リアルタイム治療
X(ツイッター)にて治療中の犬を載せています。
考察
当院で行う3D ギプス治療法は、手術なし、運動制限なし、自己修復力で骨折を治します。骨折は再短期間で治り、太く丈夫に治癒します。また、当院の2023年の調査で年齢別の治癒日数も予測できるようになりました。小型犬の細い前足の骨折は治療が難しいとされている獣医療の常識は克服できます。
学会発表
- 3Dギプスによる犬の橈尺骨骨折の治療 石嶋茂夫(2023年度第107回 獣医麻酔外科学会)
- 犬の橈尺骨骨折のピンニング手術後の骨吸収が3DギプスとPRP療法で回復した症例 石嶋茂夫(日本獣医再生医療学会 第15回年次大会)
- 3Dギプスを用いた橈尺骨骨折の非観血的治療 唐津健輔 石嶋茂夫(日本獣医内科学アカデミー学術)
- 3Dギプスによる犬の前足骨折の治療 石嶋茂夫(第21回 日本臨床獣医学フォーラム年次大会)
3Dギプス治療ができる動物病院
当院までの距離が遠い場合は、下記の動物病院の獣医師に依頼して下さい。